『羊は安らかに草を食み』
認知症になったまあさんを過去の何かが苦しめていると、まあさんの夫から相談され、長年の友人のアイと富士子は、まあさんを連れて最後の旅に出ます。
『いきぢごく』
友人と会社を経営し、若い恋人がいる鞠子は、亡き父から相続した元遍路宿の古民家で、古い遍路日記を見つけます。女の情念と執念を描いたミステリー作品です。
『展望塔のラプンツェル』
荒んだ街、多摩川市で寄り添って暮らす海と那希沙は、街をふらつく幼児に晴と名付けて面倒をみることにしました。人のつながりがもたらした奇跡と救いの物語です。
『ボニン浄土』
1840年、気仙沼から出航した観音丸は、嵐に遭遇し、南の島に漂着します。その島は、先住民に「ボニン・アイランド」と呼ばれていました。そして、現在、すべてを失った中年男・恒一郎は、幼い頃、祖父が大切にしていた木製の置物を偶然手に入れます。
『黒鳥の湖』
妻と娘と幸せに暮らす財前彰太でしたが、世間では、女性拉致監禁事件が起こっていました。それは、彰太が18年前、調査員をしていた時に依頼された事件にそっくりでした。事件は未解決のまま18年が経ち、彰太の娘が行方不明となります。
『聖者が街にやって来た』
多摩川市は、新旧の住民が入り交じる街です。市民結束のため、ミュージカルが企画されますが、若い女性が続けて殺される事件が起きます。
『子供は怖い夢を見る』
航は、虐待の末に殺された妹を、不思議な力を持つ一族に救われます。妹、その一族とは会えないまま20年以上たったある日、「ガオ」という青年に出会います。
『るんびにの子供』 「幽」怪談文学短編部門大賞
「るんびにの子供」仁美は、幼い頃、通っていたるんびに幼稚園の遠足で、丘陵地へ行きました。その向こうには小さな池があり、ホテイアオイが池を覆う中から、驚くべきものを見てしまいます。全7編のホラーサスペンスです。
『熟れた月』
がんで余命宣告されたヤミ金業のマキ子、マキ子の下で働く乾、陸上部の阿久津先輩に憧れる結、ずっと車椅子生活する博、それぞれの人生が絡み合っていきます。
『月の光の届く距離』
妊娠した女子高生の美優は、家を追い出されてしまいます。幸い福祉の手によって奥多摩にあるゲストハウスに預けられ、そこで、深刻な事情を持つ子供たちを知ります。
『ドラゴンズ・タン』
「竜舌」は、世界を滅ぼしたいという男の怨念から生まれました。古井戸に宿る生命体は、時代を越えながら姿を変え暗躍し、不気味な存在へと変わっていきます。
『夜の声を聴く』
優秀でありすぎるが故に引きこもりとなった18歳の堤隆太の前で、突然女性が手首を切ってしまいます。その女性に惹かれるがままに、隆太は彼女の通う定時制高校通い始めます。彼は、同級生の大吾が働くリサイクルショップ「月世界」を手伝い、店に持ち込まれたいくつかのトラブルを解決します。さらに、11年前に起きた未解決の一家殺人事件に巻き込まれていきます。
『鳥啼き魚の目は泪』
昭和初期。吉田房興侯爵は、伝説の作庭師・溝延兵衛に作庭を依頼します。枯山水を作るために池から水を抜くと人骨が現れます。
「行く春や鳥啼き魚の目は泪」芭蕉が奥の細道へ旅立つ時に詠んだ別れの句です。
『愚者の毒』
1985年、葉子は職業安定所で希美と出会います。二人はうまが合い、葉子は希美の紹介で住み込みの家政婦として働き出します。が、その旧家の主人の不審死によって、暗い過去が絡みついてきます。
「中途半端な賢者にならないで。自分の考えに従って生きる愚者こそ、その毒を有用なものに転じることができるのです。まさに愚者の毒ですよ。」
愚かにしか生きられない人間の哀しみが印象的な物語です。